obesity paradox : 肥満パラドックス
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「肥満って、ホントに健康に悪いの?」。
なんで、こんな話が出てきたのか。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11849854/
BMI 25 前後(22.5〜27.4)の少し BMI が高い人のほうが死亡率が低かったという 観察研究結果があります。
しかし、これは基本的には「高齢者」(主に 65 歳 以上)に関する話です。
若年者では BMI≧25 が長期に続くことは健康リスクになると 一般的に考えられています。
高齢者における肥満の概要
- 定義:
肥満は脂肪組織の過剰蓄積を指し、日本ではBMI(25kg/m²以上)が肥満の指標として用いられる。
ただし、高齢者では身長の減少や浮腫などでBMIが正確な脂肪量を反映しない場合がある。 - リスク:
若年者では糖尿病、脂質異常症、冠動脈疾患のリスクが上昇するが、
高齢者では「肥満パラドックス」が観察され、BMIが高い方がむしろ死亡リスクが低下する可能性が指摘されている。
高齢者肥満の特徴と留意点
- サルコペニア肥満:
- 筋肉量の減少と脂肪量の増加が同時に起こる状態。
- 転倒リスクや機能低下、死亡リスクが高いとされる。
- 認知機能との関係:
- 中年期の肥満は認知症リスクを高めるが、高齢期では過体重や軽度肥満が認知機能低下のリスクを軽減するとの報告も多い。
治療戦略
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生活習慣の改善:
- 食事療法:
- 適切な総エネルギーとタンパク質摂取で栄養不足を予防しながら、体重を適正化する。
- 高齢者では極端なエネルギー制限(1,000kcal/日未満)は推奨されない。
- 運動療法:
- 有酸素運動とレジスタンス運動の組み合わせが、筋肉量を維持しつつ身体機能を向上させる効果がある。
- 食事療法:
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薬物療法:
- マジンドールや防風通聖散が使用可能だが、エビデンスは限定的。
- GLP-1受容体作動薬(例:リラグルチド、セマグルチド)は体重減少効果が期待されるが、高齢者でのデータが不足している。
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外科治療:
- 内科的治療で効果が得られない高度肥満症に適応。
- 日本では原則65歳以下が対象だが、70歳までの手術が一部推奨される場合もある。
obesity paradoxは本当に存在するのか
解釈の難しさとバイアスの存在
肥満パラドックスの議論には、以下のような研究方法論上の問題やバイアスが関与している可能性があります。
-
交絡因子の影響:
- 例: 喫煙者は体重が軽い傾向がありますが、喫煙は病気を悪化させるリスク因子です。喫煙の影響を除外すると、BMIが低いグループの予後が悪化する可能性があります。
-
因果の逆転:
- 病気そのものやその重症度(例: 心不全による悪液質)が体重減少を引き起こしている可能性があります。この場合、低体重が悪い予後の原因ではなく結果である可能性があります。
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選択バイアス:
- 低体重や低栄養の患者は、そもそも重症な基礎疾患を抱えている割合が高いため、低BMI群で予後が悪くなる傾向が生じます。
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無作為比較試験の欠如:
- 肥満パラドックスに関するデータはすべて観察研究から得られたものであり、無作為比較試験ではありません。これにより、因果関係の解釈が困難になります。
肥満が予後に与える生理学的な影響
肥満が保護的に働くという仮説には以下のような考え方があります。
- 栄養の予備能力:
- 体脂肪がエネルギーの貯蔵庫として働き、悪液質(著しい体重減少)やフレイル(老化に伴う虚弱)に対して抵抗力を与える可能性。
- 重症患者の生存効果:
- 重症患者では、元々肥満だった人が軽度の症状で生存する可能性が高い。
観察データの解釈の限界
観察研究では「相関は因果を意味しない(Correlation does not imply causation)」ことが重要です。相関関係が観察されても、それが因果関係かどうかを明確にするには無作為比較試験が必要ですが、肥満パラドックスに関してはそのような試験が実施されるのは現実的ではありません。
肥満パラドックスは観察研究によって示された現象であり、医学的な解釈は未だ確立されていません。ただし、肥満が疾病の発症に関与するリスク因子であることは変わりません。
したがって、低栄養を避けながら体重を適正にコントロールすることが、疾病を抱える肥満者にとって合理的と考えられます。
ガイドラインのポイント
- 日本肥満学会ガイドライン2022:
- 65歳以上の目標BMIは22~25kg/m²と設定。
- 減量治療は個別のリスクと利益を考慮して行う必要がある。